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「希望の源である神」ルカによる福音書4章14-21節

2022年12月4日
牧師 武石晃正

 アドヴェント第2聖日を迎え、講壇前のクランツには讃美歌の歌詞にも歌われるように第2のろうそくが灯されました。主を待ち望むアドヴェント、どのような思いを抱いて主が再び来られることを期待するのでしょうか。
 聖霊によって宿り、主がおとめマリヤよりお生まれになったことを記念しつつ、再び世に来られることを待ち望むところです。本日はルカによる福音書の朗読から、「希望の源である神」と題して私たちに与えられた希望を受け取りましょう。


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1.ナザレの人イエス
 キリストと呼ばれるナザレの人イエスの生涯は、ルカが幼少期の一部を記したほかは降誕記事と成人後の出来事だけが聖書に記されています。ナザレで生まれ育った母マリヤは未婚のうちに聖霊によって身ごもり、その許婚であったヨセフもまた同郷の人でした。
 ローマ皇帝アウグストゥスの勅令による住民登録のため、ヨセフは身重のマリヤを連れて先祖の町ベツレヘムへと旅をしました。ダビデ王ゆかりの地ベツレヘムに滞在している間に月が満ち(ルカ2:6)、宿から家畜小屋へ移されたマリヤが生んだ男の子こそ「ユダヤ人の王」「ダビデの子」イエス・キリストです。

 モーセの律法に定められたきよめの期間が開けるまでイエス様と両親はベツレヘムにおりましたから、産前産後を合わせて40日を過ぎる滞在となったようです(レビ12;2-4)。その後ヨセフは妻とその子をつれてナザレへ帰郷、幼子はナザレの人として育ちます。
 養父ヨセフの第一子として育ったイエス様は家業の大工を継がれ、両親に倣って(ルカ2:41)毎年過越祭にはエルサレムへ上られたことでしょう。およそ30歳になられた頃(3:23)、当時ユダヤとガリラヤの人々を悔い改めに導いたヨハネのもとを訪れ、悔い改めを必要とする罪人の一人として洗礼を受けられました。

 ヨハネの洗礼を受けることはその一門の弟子となることであり、ヨハネもまた自分の弟子たちをイエス様の下へ弟子としてつけました(ヨハネ1:35-37)。その後しばらくは洗礼者ヨハネの一門として宣教されたようですが(同3:22)、ヨハネが逮捕されて一門が解散するとイエス様は出身地へと帰りました(マタイ4:12)。
 ガリラヤへ退かれたイエス様は、時が満ちるとかつてヨハネの門下であったときに自分の下にいた者たちを呼び集めるためにナザレからカファルナウムへと居を移されました。その間もガリラヤ地方の町々を巡回していたようで、今日の箇所でも「その評判が周りの地方一帯に広まった」(ルカ4:14)と記されています。

 ヨルダン川でヨハネから洗礼を受け、荒れ野での40日の誘惑に遭われた後の出来事です。しばらくガリラヤ一帯でみことばの宣教と癒しのみわざをなされた後、噂が各地に広まった頃合いで育ちの町ナザレへと訪れたのでした。


2.故郷で受け入れられないメシア
 「いつものとおり安息日に会堂に入り、聖書を朗読しようとしてお立ちになった」(16)と福音書でも珍しいユダヤの会堂での礼拝の記述です。旧約の安息日は週の7日目、一日は夕方から始まりますから今の暦では金曜日の夕方から土曜日の夕方までになります。
 夕方から一日が始まるとは不思議な感じもありますが、日が沈む頃に「今日も一日が終わったね」と言うことはあるでしょう。一日が終わったのならそこからは次の日ということで、「夕べがあり、朝があった。」(創1:5)との数え方にも一理あるのです。

 当時のユダヤの礼拝について詳しく知る術はないわけですが、使徒言行録にはパウロとバルナバが安息日に会堂へ入った時の記事があります(使徒13:14以下)。会堂長が司式をし、適切な人に祈りや聖書朗読、奨励を指名した様子が記されています。
 その場にいる誰でもいいから指名して朗読を許したのではなく、正しく書物を読み上げることができる人に限られます。聖書の古い写本について写真が載った資料を見ますと、今のように句読点などなくびっしりと文字が隙間なく記されています。

 例えるなら百人一首かるたの取り札がひらがなだけで区切れなく書かれているように、文字を目で追うことができても正しく読むのは困難です。本日の箇所でも「預言者イザヤの巻物が渡され、お開きになると」(17)とあるように、律法と預言書に通じている者だけに朗読と勧めが務まります。
 通常は律法の一部と預言書の一部が朗読されたようで、イエス様もイザヤ書から朗読と勧めをなさいました。「巻物を巻き、係の者に返して席に座られた」(20)ところで、人々の注目受けてイエス様はおもむろに「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」と語られました(21)。

 実現したならよいではないかと思うところですが、この一言に直訳を試みますと「聖書があなたがたの耳の中に満たされた」と書かれています。耳の穴だけがいっぱいになってしまい、心の中まで届いていないことを言い得ています。
 続く箇所では「皆はイエスをほめ、その口から出る恵み深い言葉に驚いて言った」(22)とありますが、あたかも一同が耳を傾けて御言葉を受け入れたかのようです。ところが人々は自分たちに都合よく癒しのわざをさせるために、イエス様を担ごうとしていました。

 腹の内を見抜かれ図星を突かれた人々は憤慨し、ついにはイエス様を町はずれの崖から突き落とそうとする始末。真実に照らされて魂胆が見透かされた人々が神の子でさえ亡き者にしようとしたのですから、同じ人間である預言者や教師たちには一体どれほどの仕打ちをすることでしょう。
 「はっきり言っておく。預言者は、自分の故郷では歓迎されないものだ」(24)とは直接にはイエス様がユダヤの人たちに向けたお言葉です。そして聖書はいつの時代のどの国の人に対しても、口では敬いつつも本心ではイエス様を歓迎していないのではないか問うのです。


3.希望の源である神
 このように主は安息日にも割礼のある者すなわち同朋イスラエルに仕える姿を取り、神の国を宣べ伝えました。ナザレではイザヤの預言を中心に朗読と説き明かしがありました。
 聖書の言葉はどのように実現したか、この箇所において2つの側面が示されます。一つは貧しい者つまり社会的弱者へ福音が伝えられることであり、「油を注がれた」メシアとしてイエス様がご自身をお示しになられたことです(18)。

 もう一つの面は「この人はヨセフの子ではないか」(19)と言ったユダヤの人たちには預言者のわざが与えられず、サレプタのやもめやシリア人ナアマンのような異邦人に主の恵みが注がれたことです(26-27)。聖書の言葉がユダヤの人々の心の中で実を結ばなかったので、異邦人が神をその憐れみのゆえにたたえるようになりました(ローマ15:9)。
 「異邦人よ、主の民と共に喜べ」(10) 「すべての異邦人よ、主をたたえよ。すべての民は主を賛美せよ」(11)とパウロが引用したように、今や世界中で様々な国々の人々がクリスマス(もとは「キリストのミサ」の意)を祝うようになりました。日本でもいわゆるクリスマスシーズンになりますと町の中は活気づき、喜びに満たされた雰囲気が広がります。

 果たしてそこでは聖書の言葉が実現しているのでしょうか。「メリークリスマス!(クリスマスおめでとう、の意)」と挨拶が交わされてもそこにはイエス様の面影はなく、普段より豪華な食事と娯楽の類があるのみです。
 主キリストの名がみだりに唱えられているのですから、「主の名をみだりに唱えてはならない」との十戒が犯されているばかりです。クリスマスが祝われているからと言って手放しに喜べる状況ではなく、罪に罪が重ねられているのです。

 教会だけが「そのため、わたしは異邦人の中であなたをたたえ、あなたの名をほめ歌おう」(9)と主の御名をきよく呼び求めましょう。クリスマスの飾りつけなどでイエス様のご降誕を覚えて喜びと感謝を表しつつ「捕らわれている人に解放を」告げ、私たち自身もこの世の習わしに「捕らわれている人」ではないのかと問われるアドヴェントです。
 パウロは「それでわたしたちは、聖書から忍耐と慰めを学んで希望を持ち続けることができるのです」(4)と勧めています。私たちに希望を与えるのは人の目を喜ばせ腹を満たすものではなく、聖書から学ぶ忍耐と慰めです。

 神ご自身が人としてお生まれになり、割礼ある者たちに仕える者となられました。主は仕える者の姿を通して聖書の言葉を実現し、ご自身もまた忍耐と慰めを学ばれました。
 この方をパウロは「忍耐と慰めの源である神」呼んでいます。人としてお生まれになり、自ら聖書によって忍耐と慰めを学ばれたので、イエス・キリストは私たちにとって「希望の源である神」(13)なのです。


<結び>
 「それでわたしたちは、聖書から忍耐と慰めを学んで希望を持ち続けることができるのです。」(ローマ15:4)
 かつて契約の民イスラエルに与えられた「律法と預言の書」を通して、神様は救い主メシアの現れという希望をお示しになりました。この聖書からイエス様ご自身も使徒たちも忍耐と慰めを学び、その希望を異邦人である私たちにも譲りとしてくださいました。

 最初に天から降られた時は先の契約を成就するため、そしてご自身の血による新しい契約をお与えになるためでした。新しい契約にあずかる者、キリストを唯一の救い主と信じ、その十字架の死が自分の罪の代価であったと告白するものは誰でも救われます。
 祝福のことばを読んで、祈りましょう。「希望の源である神が、信仰によって得られるあらゆる喜びと平和とであなたがたを満たし、聖霊の力によって希望に満ちあふれさせてくださるように。」(同14)

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